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【専門家が徹底解説】事業譲渡と会社分割の違いとは?最適な選択基準をご案内します!

投稿日:2025年10月1日 最終更新日:

前々回のコラムでは株式譲渡と事業譲渡の違いについてコラムを書かせていただきました。

今回は「事業譲渡」と「会社分割」のいずれを選択すべきか悩む経営者の方へ向けたコラムになります。

「事業譲渡」と「会社分割」は一見似ているようで、税務・法務・労務面への影響が大きく異なります。

本コラムでは、M&Aや事業再編を検討中の経営者の方に向けて、両者の違いや選択のポイント、実務上の留意点を税務・法務・労務の観点から徹底的に解説します。

事業譲渡と会社分割の定義と基本的な違い

事業譲渡とは

事業譲渡は、特定の資産や負債・契約・人材を個別に選択・移転する手法であり、譲渡対象範囲の柔軟な設定ができます。
譲受企業との合意により、一部資産のみの売却といった対応も可能です。

会社分割とは

会社分割とは、企業の事業部門を切り出し別法人に承継させる組織再編の手法です。
資産や負債・契約関係・従業員などを包括的かつ一括で移転でき、企業グループ内の再編やスピンオフ等で活用されます。

それぞれの適用シーンと使い分け
利用目的 事業譲渡が適するケース 会社分割が適するケース
組織再編 特定部門だけ切り離して売却 事業部門を法人として独立させる
雇用関係 特定部門だけ人員を切り出す 雇用契約をそのまま引き継ぎたい
許認可 許認可を再取得しても問題ない 許認可の承継を行いたい
契約関係(取引先) 取引先との契約は再取得できる
または契約数が比較的少ない
取引先との契約を維持したい
または契約数が大量にある
債務関係 負債の引き継ぎはしない 負債も一括で移転したい
売却対価 現金対価を希望する 株式対価でも問題ない
(※現金対価も可能)
利用
目的
事業譲渡が
適するケース
会社分割が
適するケース
組織
再編
特定部門だけ切り離して売却 事業部門を法人として独立させる
雇用
関係
特定部門だけ人員を切り出す 雇用契約をそのまま引き継ぎたい
許認可 許認可を再取得しても問題ない 許認可の承継を行いたい
契約
関係

取引先
取引先との契約は再取得できる
または契約数が比較的少ない
取引先との契約を維持したい
または契約数が大量にある
債務
関係
負債の引き継ぎはしない 負債も一括で移転したい
売却
対価
現金対価を希望する 株式対価でも問題ない
(※現金対価も可能)
事前に許認可の承継、契約関係の棚卸を行うことでどちらが適しているのか判別がしやすくなります。

税務面での比較:法人税・消費税への影響

事業譲渡における税務上のメリット・デメリット

事業譲渡における
税務上のメリット・デメリット

✅メリット

  • 対価を現金で受け取れるためキャッシュフローが明確
  • 損益計算が比較的シンプルで申告手続も容易

❌デメリット

  • 譲渡益が発生すれば法人税の課税対象となるため事前に対応の検討が必要
  • 移転対象資産に応じて消費税が課税される
会社分割における税務上のメリット・デメリット

会社分割における
税務上のメリット・デメリット

✅メリット

  • グループ内再編でも利用しやすい制度設計
  • 組織再編税制により適格要件を満たす場合、分割会社から承継会社への資産または負債を
    「簿価により譲渡されたもの」とみなすことができるため、譲渡損益に対する課税の繰延が可能
    (※適格要件は、会社間での資本関係や、株式の保有割合(100%か50%超か)により細かい定めがあるため専門家の判断が必要)

❌デメリット

  • 適格要件(支配関係・継続事業要件等)を満たすかどうか慎重な見極めが必要
  • 非適格となると時価譲渡となり課税の対象となる(※専門家の判断が必要)

法務面での比較:必要な手続きと法的リスク

事業譲渡の法務上の手続き
  • 譲渡対象財産が重要な場合は株主総会の承認が必要
  • 契約・資産ごとに個別に移転手続きを実施
  • 許認可は原則新規取得が必要であるため、事前に関係機関への確認が必要
  • 債務引継ぎには、債権者個別同意が必要
  • 債務移転を伴わない場合は個別同意不要だが、譲渡価格が不当に安いと「詐害行為」として取り消される可能性がある
  • 譲渡対象財産が重要な場合は株主総会の承認が必要
  • 契約・資産ごとに個別に移転手続きを実施
  • 許認可は原則新規取得が必要であるため、事前に関係機関への確認が必要
  • 債務引継ぎには、債権者個別同意が必要
  • 債務移転を伴わない場合は個別同意不要だが、譲渡価格が不当に安いと「詐害行為」として取り消される可能性がある
会社分割の法務上の手続き
  • 株主総会での特別決議が必要(重要な組織再編に該当)
  • 債権者保護手続き(官報公告+債権者へ個別催告)」が必要

         →完了すれば個別同意は不要

  • 労働者への説明・協議義務が発生(労働契約承継法)
  • 株主総会での特別決議が必要(重要な組織再編に該当)
  • 債権者保護手続き(官報公告+債権者へ個別催告)」が必要

         →完了すれば個別同意は不要

  • 労働者への説明・協議義務が発生(労働契約承継法)

労務面の比較:従業員の承継・同意・退職金

比較項目 事業譲渡 会社分割
雇用契約 個別同意が必要 そのまま承継
労働条件 労働条件の個別同意が必要 原則変更なし
労働組合 協議・同意を調整可能 協議義務あり
リストラ 原則不可 原則不可
退職金 譲渡企業が支払って清算するか、
譲受企業が引き継いで支払う
基本的に継続
比較項目 事業譲渡 会社分割
雇用契約 個別同意が必要 そのまま承継
労働条件 労働条件の個別同意が必要 原則変更なし
労働組合 協議・同意を調整可能 協議義務あり
リストラ 原則不可 原則不可
退職金 譲渡企業が支払って清算するか、
譲受企業が引き継いで支払う
基本的に継続

スケジュール比較:完了までの目安期間

手法 準備期間 主な手続き 総所要期間
事業譲渡 2~4ヶ月 契約移転・許認可再取得 約4~8ヶ月
会社分割 3~6ヶ月 官報公告、債権者保護手続、株主総会等 約6~9ヶ月

準備
期間
主な手続き 総所要
期間



2~4
ヶ月
契約移転・許認可再取得 約4~8
ヶ月



3~6
ヶ月
官報公告、債権者保護手続、株主総会等 約6~9
ヶ月

ここが分かれ目!会社分割か事業譲渡かを判断する5つの基準

判断には以下の要素を総合的に考慮することが不可欠です。
税務負担
適格分割の可否や、譲渡益課税に対応ができるか
手続きの簡易性
許認可の取得、契約・債務引継ぎが煩雑でないか
従業員対応
従業員数が多いかどうか、個別同意が必要か
売却スピード
スピード感を持った譲渡が必要かどうか
リスク回避
債務や法的リスクを回避することが可能かどうか
税務負担
適格分割の可否や、譲渡益課税に対応ができるか
手続きの簡易性
許認可の取得、契約・債務引継ぎが煩雑でないか
従業員対応
従業員数が多いかどうか、個別同意が必要か
売却スピード
スピード感を持った譲渡が必要かどうか
リスク回避
債務や法的リスクを回避することが可能かどうか

まとめ|最適なM&Aスキームで事業価値を最大化するために

事業譲渡と会社分割は、いずれも有効な事業再編手法です。
しかし、M&Aの目的や状況に応じて最適なスキームは異なります。

  • 柔軟性や迅速性を求めるなら→「事業譲渡」
  • 税務メリットや一体移転を重視するなら→「会社分割」

いずれの手法を選択する場合でも、
早期準備と承継方法の検討、専門家のサポートが成功の鍵となります。

皆様のM&Aが成功するよう弊社も全力でお手伝いいたします。

この記事の執筆者

新川 功雄(取締役副社長/M&Aシニアエキスパート)

早稲田大学卒。大手サービス会社、マーケティング会社、外資系企業に勤務。赤字債務超過の中小企業を経営し、黒字企業に立て直した後、自身の会社を事業譲渡して、2016年から現職。首都圏への進出、上場企業のM&A支援等を経験。

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