長年にわたって会社を支えてきた経営者の皆様にとって、引退や事業撤退は人生の大きな転機です。
その中で
「後継者がいない」
「取引先を守りたい」
「従業員の雇用を守りたい」
「誰に相談していいか分からない」
といったお悩みを抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
実際に、2025年の中小企業庁や信用調査機関の調査によると、60歳以上の経営者のうち約50%が後継者不在の状況にあります。
今回のコラムでは経営者が引退・事業撤退を検討する際に考えられる選択肢を整理し、
それぞれの選択肢についてメリット・デメリットを詳しく解説します。
【引退・事業撤退を考えるときの5つの選択肢】
1. 廃業する
事業を完全に停止し、会社を解散する選択肢です。
資産を現金化し、負債を整理して会社を清算します。
私自身も家業の経営者だった際に検討したことがあります。
- 事業の継続性に明確な見通しが立たない
- 後継者候補が全くいない、またM&Aの検討ができないような簿外債務(土壌汚染/係争等)がある
- 財務状況が悪化しており、改善の見込みが薄い
- 業界自体の将来性に疑問がある
- 手続きが比較的シンプルで、短期間で完了できる
- 複雑な承継手続きが不要で、経営者の負担が少ない
- 残った資産を経営者が受け取ることができる
- 将来的なリスクや責任から完全に解放される
- 従業員の雇用が失われることになる
- 顧客や取引先影響の事業に悪影響を与える可能性がある
- 長年築いてきた事業の価値や技術、ノウハウが失われる
- 多額の廃業コストが発生する場合がある(例:解体費用・設備撤去費用等)
⚠️注意点
- 従業員への十分な説明と配慮が必要
- 取引先への事前通知と、引き継ぎの実施
- 債務の完済と、資産の適切な処理
- 税務上の処理を専門家に相談
(特に会社の負債として役員借入金等がある場合は対応策の事前検討が必須)
廃業は当初の想定よりも実際には費用や時間がかかる場合があります。
またM&Aと比較した場合、廃業と比べて受け取れる金額が少なくなるケースがあります。
慎重にご判断ください。
2. 社内から後継者を育てる(従業員承継)
現在の従業員の中から後継者候補を選び、経営者として育成する方法です。
主に役員や管理職の中から適任者を選定し、段階的に経営権を移譲します。
- 経営者としての資質を持った従業員がいる
- 会社の財務状況が健全で将来性がある
- 後継者候補に意欲と責任感がある
- 十分な育成期間を確保できる
- 会社の文化や価値観を維持しやすい
- 従業員の雇用を継続できる
- 取引先との関係を維持しやすい
- 経営の連続性を保てる
- 後継者の人柄や能力を事前に把握できる
- 後継者候補が経営者としての資質を持っているとは限らない
- 株式買取資金の調達が困難な場合がある
- 他の従業員との人間関係に影響を与える可能性がある
(先輩・後輩、年齢などについて慎重な検討が必要→選ばれなかった人への対応も重要) - 育成に時間がかかる
- 後継者候補だけでなく、後継者候補の家族の承諾も得る必要がある
- 後継者候補の選定基準をオーナー自身が明確に設定する
- 段階的な権限移譲と教育プログラム(経営・営業・マネジメント研修等)の実施
(※必要に応じて、外部のサポート体制の活用も検討) - 株式移転の方法や資金調達方法の検討(ホールディングス化・会社分割も手段の一つ)
- 他の従業員への丁寧な説明と理解の促進
従業員承継を考える際は、
①後継者候補の資質
②後継者候補の家族の同意
③会社分割などを行うことで株式取得を行いやすくする
という点が重要になります。
また「後継候補者に近い番頭を育てておく」ことも欠かせません。
3. 子供・親族に継がせる
経営者の子供や親族に事業を承継する、最もポピュラーな事業承継の方法です。
血縁関係を活かした承継で、多くの中小企業で選択されています。 私も過去に家業を引き継いだ経験があります。
- 後継者候補に経営への意欲と能力がある
- 家族間/親族間の合意が得られている
- 事業の将来性が見込める
- 税務負担を考慮しても承継のメリットがある
- 家族の絆を活かした承継が可能
- 外部に対して安定感を与えられる
- 承継に対する従業員の理解を得やすい
- 相続税の特例措置を活用できる可能性
- 長期的な視点で育成できる
- 後継者に経営者としての資質があるとは限らない
- 家族間の対立が生じる可能性
- 相続税や贈与税の負担が重い
- 本人の意思に関わらず押し付けになる場合がある
- 他の親族との利害調整が必要
- 後継者の意思確認と能力の客観的評価
- 税務対策の早期検討と専門家への相談
- 他の親族への配慮と納得の取り付け
(※特に株式や会社資産が分散している場合は集約が必要) - 段階的な承継計画の策定
私はこのパターンで父から会社を譲り受けた経験者です。
経験者だからこそお伝えできるアドバイスは、「親族内で株式や事業用資産をもっているからと言って 相続トラブルがおきないとは限らない」ということです。
会社に関わる「株式・資産」は必ず後継者に集約する計画を立て、実行することが重要になります。
4. 他社に引き継ぐ(M&A)
第三者企業に事業を売却・譲渡する方法です。
近年、後継者不在の解決策として注目されており、M&A市場も拡大しています。
- 事業に将来性があり、技術力があるなど買収企業にとって何かしら魅力がある
- 自社の成長のために外部の経営資源が必要
- 創業者利益を現金で受け取れる
(※会社分割の場合は株式対価のケースあり) - 従業員の雇用を継続できる可能性が高い
- 買収企業の経営資源を活用して事業拡大が期待できる
- 後継者探しの必要がない
- 経営責任から解放される
- そもそも候補先企業見つからない場合がある
(※成約率は大手アドバイザー会社であっても30%前後が一般的) - 買収価格が期待より低い場合がある
- 企業文化の違いによる従業員の不安
- 買収後の経営方針変更の可能性
- 手続きが複雑で時間がかかる
- 信頼できるM&A仲介会社の選定
- 企業価値の適正評価
- 買収企業の選定基準の明確化(決算書などの開示を求める)
- 従業員への十分な説明と配慮
- 契約条件の詳細な検討
M&Aを選択する際に一番、重要な点はM&A仲介会社、アドバイザーの選び方です。
(過去のコラムにアドバイザー選び方を記載していますので、ご確認いただけますと幸いです。)
5. パートナー企業との提携
完全な売却ではなく、戦略的パートナーとの資本提携や業務提携を通じて事業の継続と発展を図る方法です。
- 事業の成長のために外部の力が必要
- 完全な売却には抵抗がある
- 信頼できるパートナー企業が存在する
- 段階的な承継を希望している
- 経営の主導権を一定程度維持できる
- パートナー企業の経営資源を活用できる
- 段階的な承継が可能
- 事業の発展・拡大が期待できる
- 従業員の雇用を維持しやすい
- 一部の資本提携を行った場合、経営の自由度が制限される
- パートナー企業と方針の違いが生じる可能性
- 利益の一部を分配する必要があるケースがある
- 契約条件の調整が複雑
- 将来的な完全承継への道筋が不明確
- パートナー企業の選定基準の明確化
- 提携条件の詳細な検討
- 将来の承継計画の策定
- 従業員への説明と理解の促進
- 契約の見直し条項の設定
業務提携から資本提携に移行する際の条件や基準などを事前に定めておくことで、
実行後のトラブルの可能性を最小化できます。
また弊社では将来の事業承継を見据えた際に実行できる
「お試しM&A」という手法もご案内しています。
この手法は株を譲渡する前に「株を貸し出す」ことで経営を委託することが出来るスキームです。
まとめ:自社にとってベストな選択肢を見つけるために
引退・事業承継・事業撤退は経営者にとって人生最大の決断の一つです。
それぞれの選択肢にはメリット・デメリットがあり、自社の状況や経営者の価値観、従業員や取引先への
影響など、様々な要因を総合的に判断する必要があります。
重要なのは、早期に承継計画を検討し始めることです。
いずれの承継方法でも時間がかかるため、適切な準備が必要です。
また、税務・法務・財務など専門的な知識が必要な分野も多いため、
信頼できる専門家に早めに相談することを強くおすすめします。
「まだ先のこと」と思っていても、今から選択肢を知って準備を進めれば、より良い承継を実現できます。
事業承継でお悩みの経営者の皆様、まずは一度専門家に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
会社の未来と従業員の幸せ、ご自身のために、弊社は最適な選択肢を考えるお手伝いをいたします。

この記事の執筆者
新川 功雄(取締役副社長/M&Aシニアエキスパート)
早稲田大学卒。大手サービス会社、マーケティング会社、外資系企業に勤務。赤字債務超過の中小企業を経営し、黒字企業に立て直した後、自身の会社を事業譲渡して、2016年から現職。首都圏への進出、上場企業のM&A支援等を経験。
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