「会社を譲渡したいけど、株式譲渡と事業譲渡は何が違う?」
経営者だからこそ一度は疑問に思ったことがあるのではないでしょうか。
事業承継や資金調達・新事業への集中など理由は様々ですが、いざ「会社を売却する」となったとき、多くの経営者が最初に直面する壁がこの選択です。
「株式譲渡の方が簡単そうだけど、本当にそれでいいのだろうか?」
「事業譲渡の方が税金面で有利って聞いたけど…」
こんな疑問を抱えながら、結局よくわからないままM&Aを進めてしまう経営者の方も少なくありません。
今回のコラムはどちらを選ぶか迷った際の判断材料として、ぜひご一読いただけますと幸いです。
今知っておきたい!株式譲渡と事業譲渡の決定的な違い
株式譲渡は、会社の株式を買手側に売却する方法です。
買手側は会社の株主となり、経営権を取得します。
- 手続きが事業譲渡と比べて簡単である
- 譲渡所得税の税率が約20%と、事業譲渡と比較して低いケースが多い
- 従業員の個別同意を得ずに労働契約を買手側に引き継げる
- 基本的に株主全員の同意が必要なため、手続が難航する恐れがある
- 簿外債務なども移転するため買手にとってリスクが高く買収監査の結果、価格が下がる可能性がある
- 現オーナーが事業を全て譲渡することになるため、まだ年齢が若い経営者にとっては譲渡後の関与の仕方について慎重な対応が求められる
- 必要な資産だけを選択して譲渡可能
- 事業の一部を切り出すケースが多いため現オーナーは主業を継続して経営できる
- 株主全員の同意を必要とせず株主総会の※特別決議で譲渡が実行できる
- 譲渡益に対して法人税が課税されるため、発生することを事前に見越して経営を行う必要がある
- 許認可の引き継ぎが困難な場合がある(新たに取得が必要なケースが多い)
- 現在の取引先との契約や従業員の移転に個別同意が必要なため、手続き自体が複雑になり負担が多い
※特別決議とは
「行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による多数の賛成が求められる決議」のことで基本的なケースが当てはまります。
(場合によっては特別決議が不要なケースもありますので気になる方は会社法第468条をネット検索してみてください。)
実際のケースで見る選択の違い
ケース1:
機械製造業C社 社長50代 従業員5名

事業譲渡を選択し、約5千万円で売却成功。
本業は別事業であり、現在も社長業を継続。
事業譲渡で得た資金を本業へ投資して非常に順調な経営を行っている。
ケース2:
小売業B社 社長70代 従業員30名

株式譲渡を選択し、約6億円で売却成功。
現在も会長として業務を継続中。
当初の大手M&Aアドバイザーでは相手が決定せず、弊社がお手伝いさせて頂くことで納得感のある譲渡が成立。
ケース3:
運送業K社 社長50代 従業員40名

事業譲渡を選択し、約1.5億円で売却成功。
現在もグループ会社の役員として子息とともに業務を継続中。
当初は株式譲渡で動いていたが、億を超える多大な簿外債務が発覚し、各専門家と協議の上、事業譲渡で譲渡が成立。
ケース4:
サービスS社 社長40代 従業員90名

「株式譲渡+事業譲渡」を選択し、約1億円で売却成功。
社長は事業譲渡で取得した事業を現在も順調に経営中。
株式譲渡と事業譲渡が同時に成立した非常に珍しい事例。
時間的な制約や債権者同意の課題から会社分割は避け、特殊なM&Aが成立。
中小企業庁のデータによると、M&Aで譲渡された方の約60%が満足していると回答しています。
出典:中小企業庁「2024年度版中小企業白書」第2-3-29図(全体版PDF)
この差を生む要因の一つが、譲渡方法の選択と考えられます。
結論:あなたの会社に最適な選択肢は?
株式譲渡が向いている場合
- 事業構造がシンプル
- 簿外債務のリスクが低い
- スピードを重視したい
- 税負担を抑えたい

事業譲渡が向いている場合
- 複数事業を展開している
- 特定の事業のみ売却したい
- 負債やリスクを切り離したい
- 株主全員の同意が取れそうにない
重要なのは、「どちらが一般的に良いか」ではなく、「あなたの会社の状況に最も適しているのはどちらか」という視点です。
適切な選択をすることで、想定以上の価格での売却も十分可能と思っています。
今すぐできる3つのアクション
①現状の棚卸
- 会社の資産、負債を正確に把握
- 事業の収益性を部門別に分析
- 潜在的なリスク要因を洗い出し
②専門家に相談
- M&Aアドバイザーや税理士に相談
- 複数の専門家の意見を聞く
- 概算での試算を依頼
③情報収集を実施
- 同業他社のM&A事例を調査
- 市場環境や業界動向を把握
- 最適なタイミングを見極める
まとめ
M&Aは一生に一度の大きな決断です。
「なんとなく」や「よく聞くから」という理由で選択せず、比較検討した上でご自身の会社に最適な方法を選択してください。
適切な選択が会社の価値を最大化と、未来の見える事業承継や新たなステージへの飛躍につながります。
弊社も全力でお手伝いさせて頂きます。

この記事の執筆者
新川 功雄(取締役副社長/M&Aシニアエキスパート)
早稲田大学卒。大手サービス会社、マーケティング会社、外資系企業に勤務。赤字債務超過の中小企業を経営し、黒字企業に立て直した後、自身の会社を事業譲渡して、2016年から現職。首都圏への進出、上場企業のM&A支援等を経験。
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